理系・文系を重ねて見る光景は
人外は微睡に潜む(後編)
人外は微睡に潜む(後編)

(承前)彼女は動けなかった。彼が近づく。
「わかっていたよ、君は来るって」
彼女は操られるように車に乗った。
(わたし、何しに来たんだろう?)
彼は運転しながら、もう彼女のスカートに手を入れて脚を触っている。スカートの奥に届く。彼女は震えるばかりだ。
「開いてごらん」彼は言った。
「いや」
「いつも最初はいやなんだね、でも」
「ほら、開いてごらん」
彼女は自動人形のように脚を緩める。ショーツが濡れた。彼女は今やそういう女なのだ。
彼は人気のない駐車場で車を止めた。
「君はホテルよりこういう場所のほうがいいだろう」
もう夜の帳が下りていた。
彼女はすべてを脱がされている。抵抗はできなかった。むき出しにされた彼女に彼がのしかかってくる。
「これだけはやめてほしいんじゃないの。君は逃げられるのだよ。僕に触ってごらん、でも撥ねつけることも、握りつぶしてくれてもいい。君の自由だよ。どうするの?」
彼の躍動する熱いものが手に触れる。彼女は恐る恐る触れ、少しずつ手のなかに握りしめられる。熱く握りしめたものは彼女が欲するものだった。
「ああ」
彼女は熱く躍動するものを熱く濡れた彼女自身に誘った。彼女の腰が意志を持つように動き、するりと奥深くまで入った。
信じられないような快感が走る。彼はゆっくりと躍動させ始めた。彼女は狂ったように腰を、身体が獣のように躍動した。

彼女は彼の連絡を待つ女になっていた。まだ三度会っただけなのに、彼の女になっていた。
「この前は公園に行けなかったね」
公園を歩いていた。
「最初、公園の途中で口数が減っただろう?」
そう、そんなことがあった。
「外灯も減って薄暗くなって怖くなったんだろう?」彼は続ける。
「出口が近づいて明るくなったら途端に元気になった。可愛いなあと思ったんだよ」
そうだった。
「出口近くで、手を差し出したら簡単につないでくれたよ、安心したんだな。でももう僕のものだって思ったよ。この手に握らせてやるって。僕の下で淫らに腰を振らせてやるって」
優しい青年なんかじゃなかった。初めから周到に狙われていた。
「そうだよ、でも、もう君は逆らうことも出来ない。引き返すことはできない。そうだろう?」
彼は彼女を抱きしめ、キスをする。胸は揉みしだかれ、スカートにも手を入れてくる。
「まだショーツつけているんだ。次からはつけてきてはだめだよ。わかるね?」
「君はそういう女になるんだ。なったんだよ」
周りはまだ明るい。
「見られるかもしれないね」彼は笑い、「でも、君はぞくぞくするだろう?」
彼女の胸はすでにむき出しされ、外灯の明かりに白く映えている。人がそっと通り過ぎ、いくつもの視線が突き刺さる。
彼女はまた深く豊かに濡れていく。
彼女は背徳に堕ちた。

清純、そして正義や真面目さにこそ悪は惹かれ、そして付け込む。
そして一切を撥ねつけるような純粋さ、意志の強さに悪はほくそ笑む。
誰にも負けないような優しさ、純粋さはもう悪を呼び寄せずにはおかないものなのだ。       
果てのない波のように寄せて、少しずつ内面をむしばみ、あとはゲームのようにじっくり楽しむ。悪は一色のみだ。少しでも沁み入られ、魅入られたら逃れる術はない。逃れたようでもその沁みは消えるわけではなく眠りにつくだけだ。
そして平和な日常に悪は保護色をまとって、そこここに転がっている。
人は神でも悪魔でもない。
誰も純白ではなく漆黒でもない。誰にもわが身にも沁みは憑りつく。人の外に、人の中に人知れず置かれている。

「優雅な獲物」(ポール・ボールズ著)には平和な日常、あるいは凄絶な戦争すら凌駕する人外の世界が描かれる。
言語学の教授が騙され、売られ、ただ見世物として調教されてしまうのだ。舌を奪われ言葉を失い、教授は命じられるままに動くモノとなる。その後、教授は保護され、救出される。けれど教授はすでに言葉をなくし、すなわち人間を奪われていた。

人が人であるように、また人が人でない人外もまたあるのだ。この世の中には。
彼女の人外への旅は始まったばかりだ。(了)

「人外は微睡に潜む」(前編)はこちらです。
次回からはまた通常な?穏やかな日々に戻ります。
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コメント
この記事へのコメント
本文はどこまででしょうか
「彼女は背徳に堕ちた。」?
「彼女の人外への旅は始まったばかりだ。」?
男のセリフ次第で背徳というより美徳のよろめきになりそうな
ちょっと変態気味なところもありますね。
富島の嗜好だったりするのかな…
そんなことが背徳に女性が一層のめり込んでいくのかもしれない。
当時の時代背景の中でこういう踏み込んだ性的表現を書くためには
悪という設定にしなければならなかったのかも。

そう言えば富島健夫は当時イケメン作家的な位置づけで、
薄い記憶ですがジュニア小説では瑞々しさを感じていたように思います



2017/09/13(水) 15:27:16 | URL | carmenc #-[ 編集]
人外は微睡に潜む(後編)
> 本文はどこまででしょうか

そうか、少し紛らわしいですね。
「彼女の人外への旅は始まったばかりだ。」ここで(了)です。


> 男のセリフ次第で背徳というより美徳のよろめきになりそうな
> ちょっと変態気味なところもありますね。

富島を引用して始まりますが、あの辺は谷崎とか川端の変態性というか。もちろん、あまりに直截的で、かの小説の文学性の欠片もありませんが。まあ、変態小説では恥ずかしいので、ポール・ボールズなどよく知らんのに無理やり意味づけたというような。
2017/09/13(水) 17:10:13 | URL | クプクプ #-[ 編集]
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